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駄文


7月某日
 
 月曜は午後からの授業なので、11時くらいに家を出ました。京浜急行という、慈恵の学生における知名度ワースト1の私鉄でトコトコと東京へ向かったのです。車内は平日の昼間ということもあり空いていました。補助席に座った私(この時点で京急は他の電車と違う。電車で補助席、なんてどう説明したらいいんだろう)
の向かい側に外人さん2人組みが座っていた。「あ〜、この人たち横須賀から乗ってきたのかな〜(米軍基地あるから)」とか考えながら何気なくその2人を見ていました。2人の会話はもちろん英語(何とかそのぐらいはわかった)。2人のうち1人はなにやら雑誌のようなものを手にしていました。見たところアニメとかトレカとかそんな系の雑誌でした。「この人たちプチマニアかな」と向かいから覗く私にはまったく気づかずに、2人は雑誌を見ながら楽しそうに喋っていました。言葉はまったく理解できませんでしたが、なんとなく内容の方向性が理解できた(かどうかほんとはわからないけど)ことがちょっと面白かったです。
 ヒマな私は2人にトムボブという名前をつけて観察を続けました。太って雑誌を持っている方がトムで、痩せてメガネをかけたほうがボブです(ビジュアル的にけっこういいコンビです)。どちらかというと、トムが話題をふっていました。ボブはトムに相槌を打ったり、時々雑誌を覗き込んだりしています。「今度7月11日は参議院議員選挙の投票日だってよ!」「知ってるよ、やっぱ民主党の勢いは注目だよな」とは絶対言ってないだろうな〜、といつものようにバカなことを考えていた次の瞬間。トムの左前腕部(内側)に刺青のようなものを発見したのです。彼は両腕で抱えるように雑誌を持っていたので、うまい具合に隠れてよく見えませんでした。気になる私。たしかなんか文字のようなものが見えた。それも親しみのある文字。日本語が。あ〜ちょっとその雑誌とってくれないかな〜、と興味津々な私になんとボブが助け舟を出してくれました。彼はトムから雑誌を取り上げ、お気に入り記事(推定)を読み始めたのです。そして、トムの問題の刺青(タトゥー)が見事に公開されました。私がさっき見たものは日本語に間違いありませんでした。しかし、内容にいささか問題がありました。
 
構うもんかと書いてあったのです。ハイ、たしかにどう彫ろうとお宅の勝手です。「構うもんか」ですよね?でも、それを見た人は「構うもんか」ではすみません。私の頭の中に気になることリストが一瞬にして出来上がりました。
@なぜそのような刺青を彫ってしまったのか。
Aそもそもトムはこの日本語を理解しているのか。
Bもしかしたら日本の彫師にだまされているのではないか。
Cでないにしてもインフォームドコンセントは取れていたのだろうか。
Dそしてボブはそれに対して何かしらの助言をしたのか。
他にも色々考えました。「どうゆうアグレッシブ極まるヤツなんだコイツは。もしかしたらこれは彼なりの世間への抵抗の姿勢を示すメッセージなのではないか。しかしシュールすぎるなこれは」とか。「トムがただ単に反抗期だからなのではないか、あ〜でもそれにしたら老けすぎているな」とか。罰ゲーム路線も考えました。
 …しかし、もっとよく考えてみればこれは大きなお世話で、別にどんなものを彫ろうがトムの自由ではないか。漢字ってちょっと海外で人気みたいだしトムも満足ならそれでいいんだうんうん。…と自分に言い聞かせ、程よく観察にも満足したことだし(なんだそりゃ)本でも読むか、と思ったそのまた矢先。なんとトムが右腕の同じ位置にも刺青をしていることが判明しました。私は願いました。「せめて右腕は普通の刺青であってくれ、けっして私を笑わすな」と。しかし、その願いもむなしく散っていきました。またもや日本語です。今度はカタカナでした。『エッセン…』と書いてありました。角度的に後半の文字が読めませんでした。これがますます私に疑問を投げかけることになったのです。エッセン…、エッセン…、この跡に続く言葉はいったい何なんだ!?彼らが横浜で降りるまで私は必死にトムの右腕のその文字を解読してやろうとしましたが、どうにもこうにも位置が悪く、失敗に終わりました。エッセン…、エッセン…。この部分を頭に持つものは「エッセンシャル」か「エッ、センセイもみずがめ座だったんですか!?」ぐらいしか考え付きません。結局その日はこの「エッセン…」と先ほどの気になることリストが頭から離れませんでした。
でも今となってはもはやどうでもいいです。答えが出るはずがありません。私には統計学の課題のほうが重要なんです。
構うもんか。


つけたし。

あとになって考えると、日本人が英語のプリントされたTシャツを着て英語圏に行くこともこれと同じことです。「あの東洋人チョーウケる!」みたいにならないようにしなければ、電車のなかでトムにツッコミまくっていた私も彼のようになってしまいます。あぶないあぶない。ここはトムに感謝しなくては。ありがとう、トム(仮)!







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