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10分小説A

「俺の立ち位置」    著: 弓弦 音音

「…というわけで、来週の試合はこのメンバーで行く。補欠選手は前日までの調子を見て決める。じゃあ今日の練習はここまで。おつかれさま!」

字形大学弓道部は来週、関東でアニメーション学部(声優学科を含む)を持つ大学全15校が出場する関東アニメ学生弓道大会に出場する。1年の中で大きな大会の一つであり、部員のこの大会にかける意気込みも相当なものであった。ここ2ヶ月あまりで、的中数を大幅に上げてきている一也(かずや)は念願の初レギュラー入りをした。しかし、彼はある気がかりな疑問を抱えていた。

「一也、ついにお前もレギュラー入りしたな!やったじゃん!今度の試合がんばろうぜ。」
「ん?ああ。あ〜、そのことなんだけどさ、主将さ、レギュラーって言って何人発表してたか尚(たかし)覚えてる?」
「7人だよ。」
「やっぱそうだよなあ!!7人だったよなあ!でもさ…。おかしくねぇ?」
「なにが?」
「だってさぁ、試合っていつも6人立ちでしょ?そんで今度のも6人だし。でも俺たち7人だし。おかしいよな?」
「いや、全然おかしくないよ。普通。ごく普通。」
「いやおれも最初は補欠も含んでるのかなって思ったけど、違ったし。…ていうかさ、主将が言ってた俺の立ち位置おかしくなかった?」
「さあ…、なんだっけ?」
「落合だよ。」
「落合…。ああ、落合ね。」
「いや、まてよ!納得すんなよ!なんか人の名前みたいになっちゃってるじゃん!ていうか落合ってどこよ!?」
「だから〜、そういうことはこれからみんなで話し合って決めればいいんじゃないの?」
「ごまかすなよ!大前、二的、三的、四的、落前、御落。6人立ちはこうだろ?いないじゃん落合!そもそも弓道にはそんなもの存在しないだろ!」
「そんなこと言われても…、じゃあなんでその場で主将に言わなかったんだよ。」
「なんか落ってついてるからその場のノリで流しちゃったんだよ。正直初レギュラーだからうかれてたっていうのもあるし。」
「とにかくお前は落合なんだから。落合としての仕事をしっかりやればそれでいいんだ。がんばろうぜ!」
「だからさ!なんか強引に話を終わらせようとしてない!?さてはお前何か知ってるな!そうか主将も、みんなグルで、みんなで俺を試合に出させないようにしてるんだな!いつも雑用係やってる俺が選手になると仕事するヤツがいないからおれを出したくないんだろ!」
「ちょっとまてよ、一也。何で俺たちがそんなことをしなくちゃいけないんだよ。ああ、じゃあもうほんとの事を言うよ。」
「やっぱ何か隠してんじゃねえか!」
「違うんだ一也、聞いてくれ。実は、落合っていうのは第七のポジションと呼ばれている、もう一つのレギュラーポジションなんだ。」
「それって、介添えとかじゃなくて?」
「介添えじゃないよ。というか俺たちは驚いたよ。ついにでたか落合が、ってね。主将もついに決断したようだね。俺の高校でも落合なんてめったに出さなかったよ。」
「お前の高校落合あったの!?」
「ああ、あったよ。責任の重い位置だからな、俺もめったに落合になった人を見たことは無かったけど。」
「ん〜やっぱいまいちわかんないな。あのさ、また質問なんだけど、試合に出てる俺は弓と矢を持ってるの?」
「な、なに突然変なこと聞くんだよ、一也。」
「いやだから、立つ位置はこの際いいとして、俺は弓を引いてるの?というか俺は射場にいるの?」
「あ、アッハッハッハ…、いや〜一也はほんとに面白いよな。この前も一也にはギャグセンスがあるってグリシン武田さんが言ってたよ。」
「誰だよ!?もうほんとのこと言えよ!」
「一也。弓道、少なくとも試合での弓道の勝ち負けは的中で決まってしまう。だから選手も自然と的中数で選ぶことになるよな?じゃあ、選手に漏れた人はいらないのか?いやそんなバカな。弓道は個人競技であるかもしれないが、俺たち一人一人はこの弓道部の一員で、そのなかの誰一人がかけても弓道部ではないんだ。みんなで一つのチームなんだ。だから、一人一人自分のできる仕事を精一杯やってみんなで一緒にチームを支えていくことが大切なんだよ。それが、的中の記録を書いたり、コンビニに飲み物買いに行ったりする仕事でもチームにとってはとても大切なことさ。」
「…。つまり俺は記録したり買出しにいくと…。そういうことだろ?」
「う…、ちが〜うよ、一也くん!まあ、細かいことは当日わかるって!ああ、バス着たよ!乗ろう乗ろう。」

試合では、字形大学は一立ち目から好調な出だしをみせ、二立ち目では3人が皆中をだし24射20中という驚異的な的中数を叩き出した。
そのころ、一也はコンビニで財布から一万円札を叩き出した。
選手達はその後も活躍し、堂々団体戦優勝に輝いた。
一也は優勝の立役者としてベストオブ落合と称され、以後弓道部の伝説として語り継がれている。
ということはことは無かった。









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